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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)211号 判決

被控訴人

株式会社大和銀行

被控訴人

株式会社千葉銀行

理由

控訴人紀太が訴外十三信用金庫を介し、昭和三五年四月二七日被控訴人大和銀行との間に、委託銀行を大和銀行、受託銀行を被控訴人千葉銀行とする金五〇〇万円の送金為替の取組をなし、大和銀行が同日千葉銀行を支払人とする金額五〇〇万円の持参人払式小切手一通を振出し、控訴人紀太に交付したことは、控訴人らと大和銀行との間においては、争いなく、控訴人らと千葉銀行との間においては、(証拠)により認められる。控訴人沢が同年五月六日右小切手を千葉銀行に呈示したが、千葉銀行では、右小切手番号が大和銀行より千葉銀行に送られた支払委託書(送金案内書)記載の小切手番号と相違していたため、右小切手の支払をしなかつたことは、全当事者間に争いがない。

そこで、右支払拒否について、被控訴両銀行に不法行為上の責任があるかどうかを検討する。

(証拠)を総合すると、「大和銀行の振出した右小切手番号は58138であつたが、右小切手につき大和銀行より千葉銀行に送られた送金案内書には、小切手番号を誤つて58198と記載されていて、その過誤は右送金事務を担当した大和銀行三国支店の掛員の手落ちによるものであること、控訴人沢は上記認定のとおり千葉銀行に右小切手を呈示し小切手金五〇〇万円について大阪市にある大和銀行本店あてに送金手続を依頼したので、掛員の鵜沢弘は同控訴人に送金依頼書の作成を求める一方、前記送金案内書と右小切手とを照合して前記番号相違を発見したので、同控訴人に対し、「委託銀行の大和銀行本店に電報で照会し確認した上でないと送金手続をすることができない。電報による照会に対する回答が当日営業時間中に間に合わないかも知れない」旨を告げたところ、同控訴人は照会を待つている時間の余裕がないといつて、同掛員に照会確認の手続をとることを求めず、大阪で組戻しをするといつて右小切手を不渡とすることを求めたので、同掛員は、番号相違のために支払に応じられない旨の符箋を右小切手に貼付して、これを同控訴人に返えしたこと」が認められる。原審における控訴人沢の供述中右認定に反する部分は前掲各証拠に対比して信用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

以上の認定事実からすれば、右小切手の支払拒否を招いたについて、大和銀行三国支店の掛員の業務執行上の過失の存することは、明かである。しかし、千葉銀行側にも業務上の過失があるかどうかについてみるのに、(証拠)を総合すると、大和銀行と千葉銀行との間の為替取引契約書によると、両行間の普通送金為替に使用される小切手にあつては、被仕向銀行(受託銀行)は小切手用紙見本、普通送金取組案内、為替取組符合を照合すべき義務が定められているから、送金小切手の番号と送金案内書に記載せられた小切手番号についてもこれを照合すべき義務があること、もし本件のように番号相違が存するときは、被仕向銀行は小切手の支払を留保し、その相違の点について仕向銀行(委託銀行)に至急照会し、その照会の結果、本件のように番号だけの相違している場合には、小切手所持人にその支払をするのが、為替事務取扱上の慣行であること、千葉銀行にあつては、他行との為替取引について、本件のような番号相違の存するときは、後に証拠を残す関係から、照会電報をもつて確認手続をとる取扱になつていて、大和銀行との間の前記為替取引契約書にも同旨の契約条項の存することが認められる。そうすると、千葉銀行の掛員鵜沢弘が控訴人沢に対して採つた上記認定の応待と措置は被控訴両銀行間の為替取引契約ならびに為替取引上の慣行に準拠してなされたものであつて、小切手所持人である同控訴人も顧客としてこれを受忍すべきものであるから、千葉銀行側には何等非難されるべき点はない。千葉銀行側が控訴人沢のために大和銀行本店又は大和銀行東京支店に対して電話による照会確認の手続をとらなかつたにしても、その点について千葉銀行側の過失を認めることはできない。

したがつて、千葉銀行側には何等落度はないから控訴人らの請求は、第一次請求、予備的請求をふくめて、すでにこの点において理由がない。

よつて、大和銀行に対して謝罪広告を求めることが相当か否かについてみるのに、控訴人らは、本件小切手の支払拒否により、土地売買が不成立となり、信用を失墜し、名誉を毀損せられたと主張するけれども、本件小切手の支払拒否によつて控訴人主張の土地売買が不成立となつたとの心証を換起するに足る的確な証拠はないから、これを前提とする控訴人らの右主張は理由がない。控訴人らは、さらに、本件小切手の不払の事実により控訴人紀太に控訴人沢より不信感をもたれて信用をそこない、又控訴人沢も資金繰に支障を来たして対外的信用を失墜したと主張する。しかしながら、原審における控訴人両名の各供述、当審における控訴人紀太の供述によると、本件小切手の資金五〇〇万円は控訴人紀太が支払つたもので、右小切手金の運用について、控訴人沢は控訴人紀太の代理人又は斡旋役のような立場で工作していたものであり、控訴人ら主張の土地売買(この点に関する控訴人らの主張の理由のないことはすでに述べた)を別にすれば、控訴人沢において本件小切手を即時資金化する必要に迫られていた事情は認められないし、小切手の不渡といつても、上記のごとく番号相違によるものに過ぎず、しかも外部に公表されたわけではないのであつて、結局本件小切手の不払による控訴人らの信用失墜はほとんどないことがうかがわれる。したがつて、控訴人らの右主張も理由がない。

そうすると、謝罪広告に値いする被害が存しないというべきであるから、大和銀行に対する第一次請求は理由がない。次に謝罪文の交付を求める予備的請求については、かかる謝罪文の交付の強制履行を求める方法が存しないばかりでなく、上記認定のとおり被害の立証もないから、控訴人らの予備的請求も理由がない。

以上の次第で、控訴人らの第一次請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は、いずれも理由がないから棄却し又当審における控訴人らの予備的請求も理由がないから棄却する。

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